ピアノを始めたばかりのころは、曲の始めから終わりまで5本の指で収まる音域を弾くことになります。
でもいつまでもそういうわけにはいきません。もっと素敵な感じの曲を弾くためには、広い音域を弾かなくてはいけなくなります。
広い音域を弾くには「指くぐり」という技が必要になりますね。
これ、ひとつの難関だったりします。
どうも音がつっかかってきれいに先へ進めない。
指が痛くなる。
こんなことはないでしょうか?
この「指くぐり」をスムーズに弾くために、腕の骨格から解説しています。
これを知っておくことで、おのずと弾き方が見えてきます。
決して指だけで弾かないこと!
やっぱりこれが大事です。
「指くぐり」ってどういう状態?
まずは、「指くぐり」って何か、ということです。
基本的な指くぐりは、親指が他の指の下へもぐって弾いていくことですね。
⇩こういう状態。
中指の下を親指がくぐっています。ドレミと来て、指くぐりをしてファを弾こうとしているところです。
他の指が親指を越える、という順序で弾く場合もありますが、これも、親指はくぐっている形になるので「指くぐり」とします。
こちらは「指またぎ」とか「指越え」「指かぶせ」といった言い方もしますね。
「指くぐり」の注意点~親指をくぐらせ過ぎない~
指くぐりをする際に注意しなければいけないのは、「親指をくぐらせ過ぎない」ということです。
親指を思いっきり折り曲げて内側へもっていこうとしてはいけません。
⇩こういう状態。
なぜダメか・・
- 親指に力を入れることで他の指にも力が入る
- 手首の柔軟さが失われる
この2点の弊害があるからです。
親指を動かすと他の指も動く
まずは1つ目の「親指に力を入れることで他の指にも力が入る」についてです。
親指を動かそうとすると当然力を入れることになります。すると、使っていない他の指にも力が入ってしまいます。
上の画像を見ると、使っていない人差し指や薬指が必要以上に上へ上がっているのが分かると思います。
これ、上がっちゃうんですよね。これって、余分な力です。
指に余分力が入ってしまうと、指の自由が奪われ、スムーズな指運びが難しくなります。
なぜ、他の指に力が入るのか
それにしても、なぜ、動かしていない指にまで力が入ってしまうのか・・
それは、脳のしくみがそうなっている、ということのようです。
身体の各部に指令を送る神経細胞は、指の場合「指」として一括りになっているようです。
例えば「人差し指を動かすための神経細胞」というように、指1本1本分かれているわけではないということですね。
なので、親指だけを動かしたいのに他の指にも力が入り動いてしまう、ということが起こるのだそうです。
参考→こちら⇩に詳しいです。
手首の柔軟さが失われる
次に2つ目に挙げた「手首の柔軟さが失われる」ということについてです。
親指をグィッともぐらせるということは、親指以外の指で弾いているときの手の形や手首の位置をそのままに、親指だけを動かすということですよね。
「親指をくぐらせる」という、明らかに違った動きをするにもかかわらず手の形や手首の位置は同じ、というのは、手にとって不自然ということです。
指くぐりをしなければいけないということは、音が次々動いている状態のはず。
なのに手首を固めてしまうというのは、次の音を弾く際にスムーズに動かせない、という状態に結びついてしまいます。
これはマズイ!と思うのです。
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ラク~に弾く「指くぐり」の方法~親指をくぐらせない「指くぐり」~
それでは、「指くぐり」はどのようにすればよいのか。
ポイントは、「指だけでしない」ということです。
親指をくぐらせるのは不自然な動き
親指だけをグィッと下へくぐらせる形は、骨の構造から考えて不自然な動きになっています。
前腕には尺骨と橈骨という2本の骨があります。
小指側の手首にあるでっぱりの部分を端にして伸びているのが尺骨です。
手の平を上下に返したりするときなど、手の動きは小指が主導になりこの尺骨を軸にして行われます。
小指から腕にかけての線が軸になる、という状態で、最も負担の少ない自然な形です。
でも、「親指をグィッとくぐらせる」という形は、親指の側の線を軸にして手首を返そうとしているような動きになり、構造から考えて無理のあるものだということです。
親指側を軸にした動きは、手を尺骨側に傾けた「尺側偏位」という不自然な形になり、手を痛めることにつながります。
以上『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』「第4章 腕と手をマッピングする」より「肘関節」(P.92~100)を参考にまとめました。
関連記事→『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』をこちらで紹介しています。
親指をくぐらせない「指くぐり」
ではどうすればいいのか。
答えは明確です。親指をくぐらせない指くぐりをすればいいのです。
「指だけでしないのがポイント」と上にも書きましたが、骨の構造を理解して、腕から意識して動かすようにすることが大切です。
手が親指側に傾いた「尺側偏位」にならないよう、小指側がまっすぐになっていることを意識して弾きます。
親指をくぐらせることを意識するのではなく、親指が自然に弾くべき鍵盤の上へ来るよう腕から動かします。その際、手は少し斜めを向くと思いますが、それでよいです。
親指をまたぐ場合も、親指で支えて他の指を越えさせるような形ではなく、他の指が親指を越える、というイメージで弾きます。
こうすれば、余分な力を使うことなく、楽~~にスムーズに指くぐりができるはずです。
関連記事→さらにスムーズに指くぐりをするために「肩関節」についてもまとめました。
『バーナム ピアノ テクニック』より演奏してみました
『バーナム ピアノ テクニック』(全音楽譜出版社)から指くぐりのものを選んで演奏してみました。
参考になればと思います。
⇩まずは『ミニブック』から。「ドレミファミレド」を「1231321」という指で弾いています。
⇩次は、『導入書』より。左から右へ合わせて2オクターブの音階です。
⇩3つ目は『バーナム ピアノ テクニック1』より。両手で音階を弾いています。
指くぐりについて『シャンドール ピアノ教本』に書かれていること
他の記事でもちょくちょく引用している『シャンドール ピアノ教本』(春秋社)。
こちらに、指くぐりについても書かています。
親指を決して掌の下に持ってこない!
技術上の最も大きな過ちの一つは、親指を掌の下に持っていく習慣である。(中略)ムラのあるパッセージ・ワークや思わぬアクセント、手が痙攣するような感覚、ぎこちなさ、不確実さは、次のことによって引き起こされる。つまりひとたび親指が掌の下に置かれると、手の構えに違和感が生じるだけでなく、親指を垂直に下げるための筋肉を利用することがまったくできなくなってしまうのだ。こうなると、手首で鍵盤を押し込むか、前腕で急いで何とかするかせねばならず、そうすると必然的に衝突が―つまりアクセントやムラのある音が出てきてしまうのである!(中略)親指は、他の指の邪魔をすることなく、垂直方向へ自由に落ちることが出来なければならない。そしてそれが可能となるのは、親指が掌の外に置かれ、手首がうまく下げられている場合だけなのである。
『シャンドールピアノ教本』(春秋社)第2部五つの基本動作 第5章五指運動と音階と分散和音 p.87より
親指をグイっと下へ入れ込んでしまうと、鍵盤を弾くための動きをしにくくなる、ということですね。
指を動かせなくなるので、音を出すために手首を下げるという動きをすることになる。「手首で弾く」という状態ですね。
これは痛めるもとになると思いますし、コントロールがきかなくて変な音になってしまいがちですし、そもそも無駄な動きということにもなりますね。
『シャンドールピアノ教本』(春秋社)での親指の話は、音階の弾き方を解説したページにあり、他の指についてや腕や手首との関係など細かく書かれています。
指くぐりは親指ではなく小指側を意識して
指くぐりは、基本中の基本ともいえる演奏技術ですね。
これができないと、いつまでたっても五指固定の音域の狭い曲しか弾けない・・。
でも、楽にスムーズに弾くためには、結構奥の深いものでもあります。
くぐらせるのは親指。だから親指に意識が行きがちだけれど、大事なのは小指側。
腕全体を動かして、肘から小指がまっすぐになることを意識する必要があります。
それをスムーズに行うには、手首を楽にしておくことが大事かな、と思います。
指くぐりができるようになると、演奏できる曲の幅も広がります。
ぜひ、習得してください。
(公開日:2018年9月13日 最終更新日:2024年9月27日)
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