ピアノ界では超有名な教材『ハノン』。私もひたすらこれを弾いて練習してきました。
「機械的で面白くない」という評価の反面「絶対必要!!」と考える人も多いですよね。
私もやった方が良いと考え、自分の教室のレッスンではハノンを取り入れています。
それはなぜか?
ハノンの練習法とその効果について、私の考えと実際のレッスンで行っていることを交えてまとめてみました。
そもそも『ハノン』とは?

これを読んだくださる方には「今さら・・」かとは思いますが。
『ハノン』とは、指の訓練に特化したピアノテキストですね。
19世紀のフランスの作曲家、シャルル=ルイ・アノンが1873年に発表した練習曲集です。
正式名称は『60の練習曲によるヴィルトゥオーゾ・ピアニスト』といい、作曲者の名前をそのまま使って「ハノン」と呼ばれるのが一般的です。
「ハノン」は英語読み、ということのようですね。
大きく3つに分かれている
『ハノン』は、第1部、第2部、第3部の三つに分かれています。
第1部は、「ドミファソラソファミ、レファソラシラソファ・・・」と続く、もっとも有名(?)な部分ですね。
第2部に入ると、もう少し音の動きが複雑になり、さらには音階練習が加わります。
音階は全調。半音階やアルペジオも入っています。
第3部は「最高のテクニックを得るための練習」となっています。
単音の同音連打に始まり、3度やオクターブでの連打や音階、3度のトリル、分散オクターブの音階などなど・・かなり高度な内容です。
一般的なピアノのレッスンでは、やって第2部までではないでしょうか。
私もそうです。昔の楽譜を見ると、第3部は抜粋してちょろっとやっている程度です。
『ハノン』の効果 ハノンさんの言っていること
ひたすら指を動かし続ける、この『ハノン』という教材。
これをやることによる効果は何でしょう。
実際、ハノンさんは「はじめに」に以下のように書いています。
すなわち、5本の指をみな平均して訓練すれば、ピアノのために書かれた曲はなんでもひくことが可能になるはずです。残る問題は指づかいだけとなり、これはまた、たやすくかたづきます。そこで目標を次のようにきめます。
- 指を動きやすくすること。
- 指をそれぞれ独立させること。
- 指の力をつけること。
- つぶをそろえること。
- 手首を柔らかくすること。
- よい演奏に必要な特別な練習を全部入れること。
- 左手が右手と同じように自由になること。
引用元:全訳ハノンピアノ教本 全音楽譜出版社 「はじめに」より
60曲すべてやるとこのような力がつく、ということですね。とても具体的、明確に書かれています。その通り!と思います。
私は、上にも書きましたが、『ハノン』をすべて弾いてきたわけではありません。
でも、やったからこそ、ここに書かれていることが完ぺきではないまでも、身についていると感じます。
『ハノン』の効果 私の考え
私自身、自分の教室でハノンを取り入れてレッスンしています。
どのような効果を期待して行っているかというと・・
- 音のつぶをそろえること
- 一定のテンポを保つこと
大きく分けると、この2点の効果が得られると考えています。
音のつぶをそろえる
一つは、「音のつぶをそろえる」ということです。
ハノンさんも4つ目に挙げていますが、1,2,3とも含まれるように思います。
「つぶをそろえる」というのは、「どの音もしっかりと出せるように」ということです。
「しっかりと出せる」というのは、音量もそうですが、音の長さもそろえるということですね。
16分音符が続くのなら、ずっと16分音符を保って弾く、ということです。
ある指のときだけ音が短くなってしまう、とか、そういうことのないように。
つまりは、どの指も同じように動かす必要があり、「指1本1本が独立して同じ力でスムーズに動かす」ということですね。
一定のテンポを保つ
『ハノン』は、ひたすらひたすら16分音符を弾き続ける、という練習曲ですよね。
1番の曲も29小節ひたすら16分音符が続きます。
で、「そのまま2番へ移りなさい」とか書いてある。
そして、メトロノームの速さ指定もあります。
そうしたことから、『ハノン』をやるもう一つのメリットとして「一定のテンポを保つ」ということが挙げられるのではないかと思っています。
♩=60なら、この速さの中に正確に16分音符を入れて弾き続けます。
同じ速さで同じことを繰り返していく、という形は、テンポ感を養うのにちょうどよいのではないかと思います。
同じことの繰り返しだからこその「余裕」を使って
『ハノン』をやる大きなメリット。
それは、「弾いているうちに余裕が出てくる」ということです。
これは、同じことを繰り返していく練習法だからこそのメリットだと思っています。
余裕が出てきて、ピアノと全く関係ないを考えていては意味ないのですが、その余裕で意識を向けてほしいことがあります。
それは、
ということです。
弾きながら、自分の指の動きによ~く注意を向けて、よ~く感じながら弾くこと。
- どのくらいの力でどこまで動かすのか
- 指の動きはスムーズか
- どんな音を出しているのか
といったことを意識して弾くことで、
- 鍵盤の位置の感覚
- 弾くときの力の入れ具合、抜き具合
などが見えてくるはずです。
それが結果的に「音のつぶがそろう」ということにつながっていきます。
『ハノン』いつから始める?レベルはどのくらい?
ここまで、『ハノン』を練習に取り入れることの効果をまとめてきました。
では実際『ハノン』を始めるのはいつからがよいのか・・大きな疑問ではないでしょうか?
『ハノン』は教材としてのレベルを考えると、「ピアノは全くはじめて」という状態で取り入れるのは早すぎる、というのが私の考えです。
ある程度は指が動かせるようになってからが良いと思います。
ひたすら同じことの繰り返しなので、よく指が動かないうちは無理があると思います。
また、よほど丁寧に取り組まないと、良くない手や指の使い方で固まってしまう可能性もあるように思います。
なので、ある程度弾けるようになって、何か曲を弾いていて、「もっと速くスムーズに動かしたいんだけど‥」と思うようになったころでよいのではないでしょうか。
自分の教室の日々のレッスンでも、まずはバーナム・ピアノテクニックなどを使って、様々な音型の弾き方を経験することから始めます。
その中で、どうも”つぶ”がそろっていない、指1本1本のコントロールができていない、テンポが保てない、などを感じたら使います。
練習に取り入れるレベルとしては、だいたい、ブルグミュラーに入る少し手前くらいからです。
でも、始めは、ハノンを簡単にした教材を使います。
『ハノン』を弾きやすく簡単にしたテキストもたくさん出ているので、まずはそういうものを使ったり、そうした楽譜の一部を抜粋して弾いてもらったりすることから始めます。
関連記事→こちらの記事で『ハノン』を弾きやすくした楽譜2冊を紹介しています。
『全訳ハノンピアノ教本』等を使って本格的に始めるのは、ソナチネ以降になります。
『ハノン』の練習法 第1部をていねいに

上にも書きましたが、『ハノン』はかなりレベルの高い練習教材です。
ピアノを始めて間もないうちは、第1部をていねいに繰り返し弾くことが良いのではないかと思います。
メトロノームは必須 でも速さにはこだわらず
一般的な『全訳ハノンピアノ教本』を使う場合は、第1部をていねいにゆっくりと進めていくのが良いと思います。
その際、メトロノームはきちんと使いましょう。一定のテンポの中に音を入れていくことが大切なので。
でも、速さにはこだわる必要はありません。
第1部の第1番の上部に、「これからの20曲は、初めメトロノームを60にして練習をし、だんだん速くして108でできるまで弾きます」と書かれていますが、60でなくてもよいです。
「自分が余裕を持って弾ける最もはやい速さ」で始めるのが良いと思います。
極端にゆっくりにする必要はありません。ゆっくりをたくさん弾けば早く弾けるようになるというものではありませんし。
何度も続けるうち、「自分が余裕を持って弾ける最もはやい速さ」がだんだん速くなっていくはずです。
「自分が余裕を持って弾ける最もはやい速さ」で弾きながら、その余裕で、上に挙げたようなことをしっかり考えながら弾く、ということです。
関連記事→こちらの記事でメトロノームを使う時の注意点をまとめています。
リズム練習は必須
『ハノン』をやる場合、リズム練習はとても大事だと考えています。
一定のテンポの中に正確にリズムを入れていくことで、テンポ感はもとより、つぶをそろえて弾くことにも大いに効果があります。
『全訳ハノンピアノ教本』には、「1番の変奏の例」として、22のリズムの例が載せられています。
その中から比較的弾きやすいものを2つ3つ選んで、メトロノームに合わせて弾きます。
具体的には、3番~11番の8分音符と16分音符の組み合わせ例と、13番と14番の付点のリズムあたりがいいのではないかと思います。
スムーズに動くようになってきたら、1番2番のアクセントをつけるものや、終わりの方のスラー、スタカート、アクセント、付点が様々組み合わされているものに入っていってはどうかと思います。
速さは、やはり「余裕を持って弾ける最もはやい速さ」で弾くのが良いと思います。
ちょっと弾いてみました。参考になればと思います。
↓ハノン1番 指定の速さ♩=108で弾いています。
↓ハノン1番を「1番の変奏の例」13番と14番で弾いています。
関連記事→こちらの記事で『ハノン』の練習ポイントについてまとめています。
『ハノン』って必要?
ピアノの練習といえば『ハノン』といってもいいくらい、ハノンは有名な教材です。
一方で、賛否両論ある教材でもありますね。(とはいっても「賛」の方が多いのかな?)
私は、できれば練習に取り入れた方が良いと考えています。
ひたすら曲の部分練習もいいけれど・・
曲をうまく弾けるようになりたいからやる『ハノン』。
でも、曲の弾けない部分は、そこを何度も練習すればいずれは弾けるようになるでしょう。
じゃあ、『ハノン』はいらないんじゃないか・・と思ってしまいますが・・。
私は、「曲の部分練習期間を短くするために」やるといいのではないかと思っています。
つまり、基礎体力をつけておく、といった意味合いですよね。
苦手な部分でも、はじめからある程度弾ける。そんな力をつけるために、『ハノン』は良いと考えています。
『ハノン』の導入は慌てずに
でも、ピアノを始めた初期から取り入れる必要はないと思っています。
ある程度指が自由に動かせるようになり、必要を感じたら、でよいと考えています。
私の教室では、『全訳ハノンピアノ教材』などを使って本格的に導入するのは、ソナチネくらいからです。
『ハノン』はあくまでも指の訓練の教材です。
これだけに頼るのは間違いだと思いますし、明確な目的をもって使っていかなければいけないと思っています。
(公開日:2017年9月26日 最終更新日:2021年8月10日)
コメント
最近の風潮で、ハノンを弾かせない、と聞いてびっくりしています。ハノンは地味でつまらないので辛くて辞めてしまう(気持ちは分かるけど楽に上手くなんかなれないです)とか、黒鍵をあまり使わないから(何なんだ)みたいな理由みたいですね。
でも、ハノンがなかったら初心者のままではなかったか、ガクブル、、、。各指が独立して粒が揃い、どんな早さでもタッチをコントロールして弾けるようになる(これが出来れば、ある意味免許皆伝)には欠かせないです。ちゃんと使えば初心者を上級まで連れていってくれる教本です。私は高校生の時、課題以外にもランダムにどんどんページをめくり、毎日一時間ゆっくりから早く、弱く強く、付点や様々なメロディアクセントで、更に転調させてなど弾いてました。ハノン先生のコメントは奥深い。ハノン先生、生まれてくれてありがとうという感じですw
エンジェル様
コメントありがとうございます。
私もひたすらハノンをやってきた人間なので、「ハノンは必要ない」という考えを知ったときは「え~~!」でした。
エンジェルさんのおっしゃる通り、リズムを変えたりアクセントの位置を変えたり、転調したり・・いろいろ応用ができるよな、と思いますし、今のところは「やっぱり必要なんでは」という考えです。
「なぜ必要か」を考えるきっかけになったな、と思っていますが、「必要ない」という考えももっと深く知りたいな、とも思います。