『バイエル』は、ピアノを始めたらまず取り組む教本、いわゆる”導入教本”ですね。
ピアノを弾く人なら、初心者の方でも名前を聞いたことがあると思います。
昔は、ピアノ導入教本は「これしかない」と言っていいほど(無かったわけではないですが)で、みんな『バイエル』を使っていましたね。
何を隠そう、私自身も『バイエル』で育ったくちです。
今は、選ぶのに苦労するほどたくさんの導入教本があります。
でも、まだまだ「バイエル程度」とか「バイエル修了程度」とか、曲の難易度を表す基準になっていますね。
そもそも「バイエル程度」ってどのレベル?と思ったことはないですか?
今回は、『バイエル』の中身をご紹介しながら、その辺りが分かりやすいようにまとめてみたいと思います。
『バイエル』の進み方
まずは、『バイエル』がどのようなレッスンの流れになっているかを、ざっくりとまとめてみます。
- 片手ずつ、5指固定で、並んだ音や飛ぶ音などいろいろな動きを経験
- 両手で、指が同じで音が違う形➡ユニゾン 5指固定(左は曲ごとに指が変わる)
- ト音記号の1段譜
- 片手ずつ、5指固定で、4分音符、2分音符、付点2分音符、4分休符が混じった様々なリズムを経験
- 両手奏、ユニゾン(5指固定)
- ト音記号のみの大譜表
- 右手メロディー左手伴奏(5指固定➡5指固定不可)
- これ以降、音域が徐々に広がり、速度標語、音符、記号、拍子等の種類が増えていく
- 長調の音階、短調の音階が順次出てくる
- ト音記号ヘ音記号の大譜表 へ完全移行
- 半音階
ざっと見て、以上のような形で進んでいきます。
『バイエル』をすべて終えると、初心者から脱皮していよいよ”1段階上がる”という感じです。
というところでは、『バイエル』の始めと終わりでは、難しさにずいぶんの差があります。
以下に、もう少し詳しく内容を見ていきます。
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『バイエル』の内容を詳しく紹介
それでは、詳しく中身をまとめていきます。
難易度の広~い『バイエル』。内容を大きく4つに分けて紹介します。
- 始め~両手奏のユニゾン №1~№7
- 両手奏の右手メロディー左手伴奏(五指固定) №8~№43
- 両手奏の右手メロディー左手伴奏(五指固定不可) №44~№64
- 音階以降 №65~№106
『バイエル』は、曲が№106まであります。それを内容によって4つに分けました。
1.始め~両手奏のユニゾン №1~№7
1番上にまとめた「レッスン流れ」の1~4の内容になります。
- 1,2;片手ずつ→両手
- 3,4;片手ずつ→両手
と進んでいきます。
№は、始めの 片手ずつ→両手 が№1、次の片手ずつが№2、両手が№3~7、ということになります。
始めの「片手ずつ→両手」№1
右手
まず右手から始めます。
音域は中央ドの1オクターブ上です。ト音記号の楽譜ですね。
ドレの2音から始まって、少しずつ広がりドレミファソの5音弾くことになります。
ドレ、ドレミ・・と隣り合わせの音を弾いていき、だんだんドミ、ドファ、ドミソ、といった具合に飛ぶ音になっていきます。
音符は4分音符のみ。それに全音符 (3/4拍子は付点2分音符) を1小節つけて曲の形になっています。
拍子は4/4拍子である「C」と3/4拍子があります。
リピート記号もついていて、繰り返して弾くようになっていますね。
1曲は短く、リピートをしなければ2小節~4小節です。
全部で24の曲に分けられています。
左手
次に左手です。
左手の音域は、中央ドからドレミファソの5音です。当然楽譜はト音記号。
右でやったのと同じ指を使って弾いていくことになるので、ソファミレドと広がっていくことになります。
ソファ(指1,2)、ソファミ(指1,2,3)・・と隣り合わせの音から始まって、ソミ、ソレ・・といった具合に飛ぶ音になっていきます。
右手でやったものと完全に反転させた形の曲になっていますね。
両手
右手→左手と進んだら、両手で弾きます。
全24曲ですが、始めの12曲は「指が同じで音が違う」形。後半の12曲は「音が同じで指が違う(ユニゾン)」形で弾きます。
音域も、始めの12曲は、右手はシドレミファ、左手ファミレドシと、片手ずつ弾いた時とは1音ずつ下の音になっています。
後半13曲目からはユニゾンです。右手ドレミファソ、左手(中央ドから)ドレミファソですね。
注意が必要なのは左手の指使いです。
中央ドから増えていくわけですが、指番号は、ドレを2,1、ドレミを3,2,1と弾くようになっていて、音が増えるごとに使う指が変わっています。
次の「片手ずつ→両手」№2~7
次は、主題と変奏という形になっています。
右手
まずは右手です。
全音符8小節の楽譜があり、その変奏が12曲あります。
変奏は、4分音符、2分音符、付点2分音符、全音符、4分休符、そしてスラーを使って、リズムがつけられています。
音域は、中央ドの1オクターブ上のドレミファソです。
左手
左手は、まず、中央ドの5度上のソからソラシの音のみ。指は3,2,1を使います。
それで5曲の変奏。
その後、ソラシドレ、指5,4,3,2,1で、変奏3曲。あわせて8曲の変奏ですね。
使われている音符は、右手と同じ、 4分音符、2分音符、付点2分音符、全音符、4分休符、そしてスラー です。
両手
そして、両手です。№3~7に当たります。
ここから、ト音記号のみの大譜表の楽譜になります。
1オクターブ違いの(左手が中央ドの位置)ユニゾンの形。つまり、「音は同じで指は違う」という形で弾くことになります。
曲は、№3~№7の5曲です。
全音符のみ➡2分音符のみ➡付点2分と4分音符・・・とだんだん細かくなっていきます。
音の動きは、「ドレミファソファミレ」や「ドミソミド」といった程度ですね。
速度標語が付き、Moderato(モデラート)が書かれています。
2.両手奏の右手メロディー左手伴奏(五指固定) №8~№43
ここから、右手メロディー左手伴奏の形に入っていきます。 1番上にまとめた「レッスン流れ」の 5の前半になります。
内容によって
- №8~№31
- №32~№43
の2つに分けました。
№8~№31
音域の広がり
音域が徐々に広がっていきます。
左右の手が全く別々の動きをする本格的な両手奏になるため、まずは、左手1音から始まります。
左手の音は、以下のように進みます。
左手:中央ドの5度上のソのみ(№8~10)➡ミファソ(№11)➡ドソ (№12)➡ドレミファソ(№13~17)
№18で、ミソ、ファソの重音
出てくる音符は、4分音符、2分音符、付点2分音符、全音符です。
曲が進むにつれ4分音符が増え、音がよく動くようになります。
右手は、中央ドの1オクターブ上のドレミファソの位置で、ドレミやドソなどいろいろです。
速度標語、記号
速度標語で出てくるのは、 Allegretto(アレグレット)、Comodo(コモード)の2つです。
記号については、タイのみが出てきます。
№32~43
音域の広がり
ここでは、音域がさらに広がります。
まずは右手。
これまでは、中央ドの1オクターブ上ドレミファソでしたが、№32でその上のソラシドレ、№37でその下のソラシドレ、№41でさらに上のラシドレミが出てきます。
すべて、5つの音をセットにして一度に動くという形ですね。
そして左手は・・
これまでは中央ドからドレミファソの位置でしたが、№32でその上のソラシドレ、№35で中央ドの下のソシドレ、そして№37でソラシドレ、№41で中央ドの上のラシドレミが出てきます。
やはり、一度に動く形になっています。
⇩分かりにくいので書いてみました。
速度標語、記号
新たに出てくる速度標語は、Andante(アンダンテ)ですね。
他には、曲中にsimpre legato(シンプレ レガート)があります。
記号は、新たなものはありません。
3.両手奏の右手メロディー左手伴奏(五指固定不可) №44~№64
ここから、指広げなどを使って少し広い音域を弾くようになります。
「レッスンの流れ」の5の後半部分です。
音域の広がり
まずは、オクターブ記号が出てきます。
右手は中央ドの1オクターブ上ドレミファソ、左手はその下のミファソラシの音にオクターブ記号が付いています。№44は、この音域で弾きます。
№46で、左手はドミソ(ドソミソ)、シレソ(シソレソ)の分散和音の伴奏が出てきます。
これ以降この形が多くなり、五指固定では弾けなくなります。
そして、№47で左手は中央ドから下へドシラソと出てきます。
この音が出てきたことでヘ音記号の説明がされ、曲の途中でのヘ音記号が出てくるようになります。
№51以降は、右手も指広げ、指ちぢめ、曲途中の五指移動が必要になり、五指固定では弾けなくなります。
また、左右ともに1オクターブの移動も出てくるようになります。
音符
音符の種類は、№44で8分音符、№52で8分休符が加わります。
8分音符が出てきたことで、№48で付点4分音符+8分音符のリズムが初登場し、以降よく出てくるようになります。
拍子も、2/4拍子、そして、6/8拍子が出てくるようになり、曲が複雑になっていきます。
1曲の長さも、主に16小節だったものが、20小節以上の曲も増えていきます。
関連記事→『バイエル』№45、51、60を演奏しています。
速度標語、記号
新たな記号は、上に挙げたオクターブ記号、そして1カッコ2カッコが加わります。
スタッカート、アクセントも出てくるようになります。
また、強弱の記号、cresc.(クレッシェンド)、dim.(ディミニエンド)、decrescend(デクレッシェンド)、f(フォルテ)、mf(メゾフォルテ)、p(ピアノ)が出てきます。
速度標語は、Allegro moderato(アレグロモデラート)が出てきます。
他に、曲中にdolce(ドルチェ)もありますね。
4.音階以降 №65~№106
ここから音階、つまり長調や短調といった調性が出てきます。
「レッスンの流れ」の6以降の部分です。
音階を弾くということは、指くぐりが必要になるということです。
№44以降指広げ、指替え等が出てくるようになり、5指を固定した状態で弾くことができない音域の広がりになってきていました。
これ以降は、指くぐりをしてさらに広い音域を弾いていく段階になります。
また、調は調号で表されるため、♯、♭、♮が出てくることになります。あわせて、臨時記号も出てきますね。
そして、これ以降の楽譜は完全にト音記号ヘ音記号の大譜表になります。
1曲の長さもさらに伸び、1ページに1曲という形も増えていきます。
調の出てくる順番
まずは、各調の出てくる順番をまとめます。
- ハ長調(調号なし)
- ト長調(♯1つ)
- ニ長調(♯2つ)
- イ長調(♯3つ)
- ホ長調(♯4つ)
- イ短調(調号なし)
- ヘ長調(♭つ)
- 変ロ長調(♭2つ)
出てくるのは、以上の8つです。
そして、最後の№105、106に半音階が出てきます。
1つ調を学ぶとその調の曲を数曲経験する、という形が基本ですが、間にこれまでに出てきた調の曲も弾くようになっています。
音符
新たな音符としては、№74で3連符、№80で前打音(装飾音符)、№86で16分音符が出てきます。
16分音符の登場以降は、付点8分音符+16分音符のリズムがよく出てくるようになります。
また、和音(重音)も頻繁に出てくるようになります。単独ではなく、連続して動く形も増えます。
2度、3度、5度の重音で、3和音は出てきません。
その他、終わりに近い№102では、複付点音符が出てきますね。
関連記事→『バイエル』№67を演奏しています。
速度標語、記号
記号については、上にも挙げましたが、♯、♭、♮が出てくるということが大きな変化ですね。
調号だけではなく、臨時記号として曲中にも出てきます。
他は、フェルマータ、そして、marcato(マルカート)が説明されています。
速度標語は、新たなものはありません。
まとめ 「バイエル程度」ってこんなレベル
『バイエル』の内容を詳しくまとめてきました。
難易度としては、大きく4つに分けられるかと考えました。
- №1~7・・・・・片手ずつから始まって簡単な両手奏(ユニゾン)まで
- №8~43・・・・完全な左右別々の両手奏で様々な音域を弾く
- №44~64・・・指広げ、指ちぢめ等が必要になり五指固定では弾けなくなる
- №65~106・・・音階(調)を学び、指くぐりなどして1曲の中で広い音域を弾く
内容を簡単にまとめると、このようになるでしょうか。
3つ目の№44以降から、五指固定では弾けない広さの音域の曲が出てくるようになります。
一気に難しくなるのは、4つ目の№65以降でしょうか。指くぐりをしてさらに広い音域を弾くことになり、加えて♯、♭が出てきます。
リズムも複雑になり、和音での移動も多くあります。
「バイエル程度」の目安は?
「バイエル程度」の「程度」の分け方は、「バイエル前半程度」「バイエル後半程度」といったものもあります。
子ども向けで古くからある、全音楽譜出版社の『子供のバイエル』、音楽之友社の『こどものバイエル』は、ともに上下2巻に分かれています。
ちなみに、私が子どものころ使っていたのは音友の『こどものバイエル』
どちらも、上巻№43まで、下巻№44以降となっています。
というところでは、「バイエル前半程度」は№43くらいまで、「バイエル後半程度」は№44以降というのがひとつの目安になるかなと思います。
曲集によっては「バイエル№○∼○程度」とかなり細かく分けられているものもありますね。
具体的な曲を「バイエル○○程度」などキッチリと分けるのは難しいと思いますし、あくまでも目安と考えた方がよいのではないでしょうか。
でも、細かく書いてあると悩んじゃう・・
自分は両手奏に入ったところだから、「バイエル前半」っていうことかな。
自分は指広げなどして少し広い音域を弾いているから、バイエル№44辺りかな。
こんな感じで、自分はどの「程度」?と迷っている方が、少し自分の位置が見えるようになればいいかな、と思います。
参考になればうれしいです。
(公開日:2020年3月12日 最終更新日:2024年9月19日)
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