こちら↓の記事で、『トンプソン現代ピアノ教本1』をご紹介しました。
その時、「とてもいい教材だけれど小さな子向けではないよね・・」と書きました。
ということで、小さな子向けのトンプソン『トンプソン はじめてのピアノ教本』を紹介します。
丁寧すぎず、おおざっぱすぎず、
書く課題にも同時に取り組みながら、音符を読むことや拍子をきちんととることが重視されていると感じます。
全3巻ですが、1巻のみ詳しくご紹介します。
- トンプソンの子ども向けピアノ教本の詳しい内容を知りたい人
- 弾くことと同時にワークを進められるテキストを探している人
『トンプソン はじめてのピアノ教本』シリーズについて
『トンプソン はじめてのピアノ教本』は、初版は2008年、ヤマハから出版されています。
全3巻になりますね。
出版社のサイトに「いわば現代教本の幼児版」とありますが、『トンプソン 現代ピアノ教本』の小さな子向けです。
原著はアメリカで50年以上前に出版されているとのこと(訳者まえがきより)。
『現代ピアノ教本』の日本初版が1972年なのから考えても、日本に入ってくるのが遅すぎませんか??
3巻までの内容を簡単に
第1巻しか手元になく、今回は1巻のみを詳しくご紹介します。
まえがきによると、3巻までの内容は以下のようになります。
この教則本の第1巻、第2巻ではピアノに慣れ親しむことに重きを置いて、5本の指はいつも隣り合った位置で無理なく弾けるようにするところから始まり、その他の拍子記号、音程などの音楽の中の約束事も、遊びながらと思える感じで繰り返されて進み、子どもたちが特別な難しさを感じないで習得していけるよう、工夫してあります。
第3巻からはそれらの基礎を身につけたという前提から、曲が発展してきますが、音楽を楽しんで味わうというこの当時のアメリカ的な考えからでしょうか、次第に様々なジャンルのアラカルト的な曲の選択になっていきます。
『トンプソンはじめてのピアノ教本』「訳者まえがき」より
1,2巻は指くぐりなどはなく、ほぼ5指ポジションで弾ける曲が中心。
3巻から本格的な曲の演奏に入っていく、といった感じでしょうか。
そして、遊びの要素を取り入れて楽しみながら音楽・ピアノに親しんでいけるようになっている。
ということですね。
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『トンプソンはじめてのピアノ教本1』の特長
まずは、第1巻の特長をまとめます。
著者のジョン・トンプソン自身が、この教本の目的などについてキッチリと述べているので、まずそれを載せます。
目的
この教則本は、子どもたちがスムーズにピアノ演奏に入っていくことを目指しています。幼い子どもたちにとって、楽譜を音名で読んでいくことは大変ですが、この〔第1巻〕では、特にそれを克服していくことに力を入れています。(以下略)
この本で学習すること
〔第1巻〕では意図的に、学習範囲を中央の「ド」から上下5度以内に、また音符の長さも4分音符より短い音符が出てこないようにしてあります。(以下略)
『トンプソン はじめてのピアノ教本』「先生と保護者の皆様へ」より
分かりやすいですね~。
この記事これで終わってもいいくらい、はっきりと書かれています。
つまり、第1巻は・・
- 楽譜を読むことが最重要課題
- 音域は、中央ドから上下5度まで
- 出てくる音符は4分音符まで
という内容になっているということですね。
その他の特長としては・・
- カラフルな7匹のキャラクターがいる
- ところどころに書く課題(ワーク)があり、書くことを同時進行で行う
7匹のキャラクターは、単なるイラストではありません。
いろいろなところに登場し、重要な部分を指さしていたり、説明文が吹き出しでセリフになっていたりします。
子どもたちからすると、話しかけられているようで楽しいかもしれませんね。
近年日本語版が出版された『ピアノ・アドヴェンチャー』は、キャラクターに名前が付いています。
こちらはついてませんが、教本に特定のキャラクターがいるというのは、こちらが元祖なのかもしれません。
参考記事→こちらの記事で『ピアノ・アドヴェンチャー』を詳しく紹介しています。
そして、途中途中にワークや音符などを実際に書いてみるスペースがあります。
ページの端に少しあったり、2ページにわたって割かれていたりしています。
内容については後述します。
『トンプソンはじめてのピアノ教本1』の具体的な内容
それでは、具体的な内容を見ていきます。
「弾く」まえに・・
実際に弾いてみる段階の前に、4ページが割かれています。
内容は・・
- 鍵盤の説明
- 鍵盤の「中央ド」の位置
- 楽譜の「中央ド」の位置
- 楽譜の説明
けっこう盛だくさんな感じ。
基礎の基礎をここまでで押さえておくということですね。
鍵盤について
まずは鍵盤の説明です。
「くろいけんばん(黒鍵)」は2つと3つに分かれていること、
2つの「くろいけんばん」からドを探すこと、
について書かれています。
次に、鍵盤のイラストがあり、鍵盤上の「まんなかのド(中央ド)」の場所が示されています。
そして、楽譜上の「まんなかのド」の位置についての説明です。
ヘ音記号、ト音記号それぞれで書かれています。「おんぶきごう(音部記号)」という名前も出てきます。
「まんなかのド」は全音符で書かれていて、ここで全音符の説明もされています。
楽譜について
最後に、楽譜の説明です。
「しょうせつ(小節)」や「しょうせつせん(小節線)」という名前が出てきます。
そして、拍子記号についての説明もあります。
出てくるのは4/4拍子、3/4拍子、4/2拍子の3つです。
もう1つ、指番号についてもここで説明されていますね。
弾く段階に入ります
ここから実際に弾いていくことになります。
まずは中央ドのみ。
大譜表のト音記号部分に書かれているものを右手で弾き、ヘ音記号部分に書かれているものを左手で弾きます。
全音符4小節ですね。それぞれ親指で弾くよう指示されています。
その次から題名の付いた曲になります。
音域の広がり方
第1巻では、そもそも中央ドから上下に5度までの音しか出てきません。
上に挙げた著者トンプソン自身によるこのテキストの「目的」の通りです。
中央ドのみの曲から始まって、上下1音ずつ広がっていきます。
広がり方は以下の通り。
- 中央ド・・・・2曲(左右で弾き分け)
- ドレ・・・・・1曲(右のみ)
- ドシ・・・・・1曲(左のみ)
- シドレ・・・・2曲
- ドレミ・・・・1曲(右のみ)
- ドシラ・・・・1曲(左のみ)
- ラシドレミ・・2曲
- ソラシドレミ・・4曲
- ドレミファ・・・1曲(右のみ)
- ソラシドレミファ・・3曲(3曲目はソラシドレミになっています)
- ソラシドレミファソ・・4曲(ドレミファソの曲1曲(右のみ))
- ファソラシドレミファソ・・3曲(うち2曲はファソラシドレミファ)
新しい音が出てきたら、これまで出てきた音も含めた音域の曲を弾く、という流れですね。
つまり、ドレミ、ドシラと広がったら、ラシドレミの音域の曲を弾くということです。
ドの音は、右で弾いたり左で弾いたりします。
曲の長さは?
この教本は、題名の付いている曲が25曲あります(1番はじめの中央ドのみ全音符4小節の2曲は含みません)。
曲の長さは16小節のものが多く13曲あります。半分ですね。
初めて出てくるのがシドレの音域のところ。それ以降はほとんど16小節です。
1番短いのが4小節で1曲。8小節の曲が10曲。12小節の曲が1曲あります。
導入教材としては、少々長いという印象です。
音飛びの状況と和音について
音域が広がってくると、メロディーもいつも隣り合わせの音というわけにはいかなくなります。
なので、ドミとかドファといった音の飛んだ状態を、片手のみで弾くことが出てきます。
またこの教本は、少しですが和音を弾く部分もあります。
音飛びと和音。その状況についてまとめます。
- ドレミ(右手)、ラシド(左手)の音域で3度の音飛び
- ソラシドレミの音域で4度の音飛び(ドソ)、指3,4での2度の和音(ソラ)・・ともに左手
- ソラシドレミファソの音域で5度の音飛び(ドソ)、指4,5で2度の和音(ファソ)・・ともに右手
- ファソラシドレミファソの音域で4度の音飛び(ドファ)・・右手
3度の音飛びは、はじめは1,3の指を使いますが、後ろへ行くと2,4や3,5といった指づかいも出てきます。
左右の手にわたる音飛びは随時出てきます。
和音は2度の重音のみですね。左右ともに出てきます。
音符、休符の出てくる順番 記号についても
次に、音符についてまとめてみます。
第1巻では4分音符より短い音符は出てきません。
これも、上に挙げた著者自身による本書の「目的」に書かれている通りです。
ということは、出てくる音符は、全音符、付点2分音符、2分音符、4分音符の4つだということですね。
出てくる順番は以下の通り。
- 全音符
- 2分音符
- 4分音符
- 付点2分音符
全音符は、弾く段階に入る前の「まんなかのド」の説明の中で真っ先に出てきます。
ト音記号、ヘ音記号を記した楽譜で、中央ドが全音符で書かれているわけです。
次に出てくるのが2分音符。
まだ、中央ドのみを弾く段階です。2分音符だけの4小節の曲を弾くようになっています。
そのすぐ次のページで4分音符が出てきます。
ここもまだ中央ドしか弾かない曲です。すべて4分音符の8小節の曲ですね。
少し遅れて付点2分音符が出てきます。シドレの音域を弾く曲です。
この曲は3/4拍子。ここで出てくるわけですね。
付点2分音符が使われれるのは、ほとんど3/4拍子の曲です。
後ろの方で、2曲のみ4/4拍子の曲で使われています。
休符については、全休符、2分休符、4分休符の3つが出てきます。
ソラシドレミまで音域が広がったところで、3つまとめて説明されています。
ここまでは、休符は一切出てきません。これ以降、楽譜に休符が書かれるようになります。
音楽記号について出てくるのは、タイのみです。ソラシドレミファの音域のところで出てきます。
拍子記号について
拍子については、弾く段階の前に4/4、3/4、2/4拍子の説明がされ、出てくるのはこの3つのみです。
弾く段階に入ってしばらくは4/4拍子の曲が続きます。
シドレの音域のところで2/4拍子→3/4拍子と続けて出てきます。
この2/4拍子、3/4拍子は拍子が違うだけで同じ曲です。
拍子の違いで曲が変わる、つまり拍子は大事ということを感じてもらう意図があります。
ワークについて
この教本は、弾くことと同時進行で書く課題(ワーク)がところどころにあります。
基本的には、新しい音が出てきたところでその音を書いてみるという課題がページの端に入っています。
その他に、見開き2ページの「ワークシート」が4か所あります。
ワークシートの内容は
- 音符を書く
- 音の名前を書く
- 音の長さを数字で書く
- 拍子記号にあった小節線を書く
- 拍子をたたきながら音の名前を読む
- 指づかいを書く
といったものです。
音部記号はもちろん、拍子まで書かれている五線に書き入れるようになっているものばかりです。
つまり、音符を書く課題も、例えば
「レの音を、4/4拍子3小節の楽譜に、全音符を1つ、2分音符を2つ、4分音符を4つ書く」
といった形です。
音符を読むことについて
この第1巻は、「音符を読むことに重点が置かれている」ということです。
どのような形でそれが行われているかというと、
- 新しい音が出てきたらそれを書く
- 「こえにだしてよんでごらん」という課題がある
- 「ワークシート」での音名を書く課題
まずは、各「ワーク」で音名を書く課題が多くあります。
そして、その曲で使われている音を別枠で示し「こえにだしてよんでごらん」と書かれています。
それぞれの曲で使われている音を、しっかりと認識できるようにということですね。
こうしたことの繰り返し、積み重ねで、スムーズに読めることを目指すということですね。
『トンプソンはじめてのピアノ教本1』進み方のまとめ
ここまで、音域や音符などそれぞれの進み方を書いてきました。
すべてまとめて、全体としてはどのように進むのかを書いてみます。
- 鍵盤の説明、ドの見つけ方
- 鍵盤上の中央ドの位置
- 楽譜上の中央ドの位置・・五線、全音符、音部記号
- 楽譜の説明・・小節、小節線、拍子記号(4/4、3/4、2/4拍子)、指番号
- 中央ドを弾く・・全音符⇒2分音符⇒4分音符
- ワークシート
- ドレ(1曲)
- ドシ(1曲)
- ワークシート
- シドレ(2曲)・・2/4拍子⇒3/4拍子、付点2分音符
- ドレミ(1曲)
- ラシド(1曲)
- ラシドレミ(2曲)
- ワークシート
- ソラシドレミ(4曲)
- 休符・・全休符、2分休符、4分休符
- ドレミファ(1曲)
- ソラシドレミファ(3曲)・・タイ
- ソラシドレミファソ(4曲)
- ファソラシドレミファソ(3曲)
- ワークシート
『トンプソンはじめてのピアノ教本1』楽譜の状況
楽譜の状況についてまとめます。
大きさは菊倍判の横長タイプ。導入教材に多い形ですね。
中身はフルカラーです。
キャラクターのイラストがとってもカラフル。イラストはほぼキャラクターのみですね。
実際に弾く初めての楽譜の大きさが、五線の幅は1.8㎝、大譜表としては5.6㎝ほどです。
それがだんだん小さくなり、最後の曲は五線の幅が1.2㎝、大譜表は3.5㎝になります。
楽譜、音符の大きさは、すごく大きい、というわけではありません。もっと大きな導入教本もありますね。
周りにイラストが少ないので、その分すっきりとしているかな、という印象です。
少し見にくさを感じるのは、1段の小節数や小節の幅が一定ではないのことかな。
1段目2段目が4小節、3段目は8小節といった具合に段によって小節の数が違ったり。
最後の段だけ小節の幅が狭いとか、全音符は小節の幅が狭いとか、といった風になっている曲は多いです。
1段の中の小節数は、多少の違いはあっても幅は同じ方が見やすいと思います。
また、音符の数が少なくても小節の幅は同じ方が、これも見やすいと思います。
あと、説明文や伴奏譜などメイン楽譜以外の部分の場所が一定ではないのも気になります。
上にあったり下にあったり横にあったりします。
ということは、メインの楽譜の場所も一定ではないということです。
なので、1段が短かったり長かったり、段によって幅が違ったり、ということにつながっているんですね。
このあたりがちょっと引っかかるところです。
『トンプソンはじめてのピアノ教本1』まとめ ワークを同時に進めたいなら
この教本の最大の特徴は、弾くだけではなく、音符をきちんと読み、書くということを同時に進められるということですね。
これはとてもいいなと思います。
内容も結構高度。
小節線を書き入れるというのは、導入の段階ではなかなか難しいことのように思います。
でも大事なこと。
拍子をきちんと理解し、感じながら弾くのはとても大切ですよね。
また、音符を書くことも、ただ形を書くだけではなく五線に音として書くことが重視されています。
楽譜を書き、理解する、という視点で作られているなと感じました。
進み方も、丁寧すぎずおおざっぱすぎずといった感じでしょうか。
音符や拍子記号などはわりと早めにまとめて出てきて、あとは、音域を少しずつ広げていきながら弾く、という形ですね。
はじめから大譜表ですし。
気になる点は、楽譜の状況です。ちょっと見にくいな・・と感じます。
私、実は自分の教室を始める時に常備する楽譜の検討で、この『トンプソン はじめてのピアノ教本』を外したんです。
その理由はこれ。
見にくいなあ・・と感じたんですよね。そこさえクリアできれば、という感じです。
あと、気になる点といえば、弾く姿勢や手指の形については全く触れられていないことですね。
2巻からテクニック系の曲が入ってくるということなので、そちらで詳しくということでしょうか。
2巻を持っていないので‥。
私にとっては、ワークを同時に進められるというのは大きな利点です。
今後、レッスンで使うことも検討していきたい教本です。
(公開日:2018年8月3日 最終更新日:2024年7月19日)
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