ピアノを弾くときに体はどう動いているのか、どう動くべきなのか・・
レッスンをする上でもとても大事と考え、勉強の必要性を感じていました。
そして、いろいろ調べて「これがよさそう!」と購入したのが、この本『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』。
2006年初版ですが、版を重ね、2024年2月にも重版されています。
必要とされているということですよね!
私自身も、買って良かった!常に手元に置いておきたい!という1冊になっています。
『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』「ボディ・マップ」と「マッピング」
この本には、「ボディ・マップ」そして「マッピング」という言葉が、いたるところに出てきます。
まさに、本書のキーワードということです。
「正しいボディ・マップをマッピングすることの必要性と重要性」を説いた本、と言っていいのではないでしょうか。
「ボディ・マップ」ってなに?
ボディ・マップといわれると、ん?という感じかもしれませんが、身体についての脳内にあるイメージのことです。
このイメージを持っているからこそ、自分の体を思うように動かせている、ということですね。
明らかに私たちは、自分の身体の大きさや体重、自分の身体部位の相対的な位置関係や、どこに関節があり、それがどう動いているかといったことを把握しているのです。
中略
私たちの体の位置や状態、動きは、脳の中でしっかりとイメージされていて、このイメージを用いて全身の動きを協調させているのです。この脳内イメージこそがボディ・マップと呼ばれるものなのです。
本書16ページ「ボディ・マップ」の項より
けれど、このボディ・マップは自分自身の様々な経験から作り上げられたものなので、とてもあいまいだったりします。
実際の体の構造とは違っている場合もある、ということですね。
事実、自分自身のことを振り返っても、実際の体の構造の細かなところまではよくわかっていません。
本来の体のつくりとはかけ離れたボディ・マップを持った状態で体を動かしていると、痛みなどの不調が出てしまう、ということです。
「ピアノを弾く」ということも、一つの動作です。
正しいボディ・マップを持って弾くことで、体の不調を防いだり、改善させたりすることができる、と述べられています。
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正しい体の構造を知り、それを「マッピング」すること
「正しいボディ・マップを持つために、実際の体の構造を知ることが重要だけれど、それだけではダメ!」と本書には書かれています。
身体について解剖学的に正確な情報を得さえすれば、正確なボディ・マップをもてる、というわけではありません。2つは同じではないのです。ボディ・マップは身体の動きを支配する脳内イメージです。身体の構造を知っていても、その知識でもってちゃんと身体の動きをコントロールできていなければ、それは単なる知識であり、ボディ・マップの一部であるとは言えません。
本書17ページ「ボディ・マップvs観念的な知識」の項より
では、どうすればいいでしょう…
本には、「身体と一体化させること」が大事、と述べられています。
得た身体構造についての知識を、自分自身の”感覚”として取り込んでいくことが必要、ということです。
これってすご~~く大変!すご~~く時間がかかりそう!!
本書の訳者で、音楽家の脳と身体の関係についての研究者ながら、ピアノもプロ級の腕前である古屋晋一さんは、実際に本書の著者であるトーマス・マークのレッスンを受けられ、
「本当に大変な作業でした」
と、あとがきで述べられています。
『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』常に手元に置いて見返しながら・・
これは、本書のカバーの帯部分に書かれている言葉です。
弾きながら、確かめながら、感じながら・・
ピアノの練習をしながら、この事を繰り返し繰り返し行っていく必要がありますね。
身体の構造、姿勢のバランス、呼吸の仕組み、ピアノの構造そして、身体の故障についてまで
本書には、まずは骨格や筋肉の構造について書かれています。
そして、姿勢を保つためのバランスがどのように働いているかも解説されています。
また、呼吸の仕組みについても書かれていて、呼吸が身体の緊張状態と深く関係していることが分かります。
こうした事柄が、一つ一つピアノを弾くことと絡めて書かれています。
あくまでも、ピアニスト向けだということですね。
さらに、ピアノの構造についても述べられています。
音が出る仕組みが解説されていて、余計な力を込めても音の出方は変わらない、ということに気づかされます。
これらのことを、しっかり読み込んで、理解して、実践していく。
今自分が弾いているのは、どんな動きを要するのか。
この時、指は、手は、腕は、肘は、肩は、胴体は、どうなっているのか。
そして、どうなるべきなのか。
一つ一つ確かめながら、練習を進めていかなくてはいけません。
はっきり言って、一筋縄ではいかない感じです。
何度も読み返し、自分の体を触ってみて確かめて、神経をとがらせて弾いているときの体の状態を感じ・・・
まさに、「いつも譜面台に置いて」地道な作業が続きそうです。
最後の第9章には、ピアニスト特有の身体の故障について書かれています。
故障の4大原因についてと、腱鞘炎、手根管症候群、ジストニアの3つが、独立した項目で記されています。
すでに痛みなどが出ている方には、とても有益な章ではないでしょうか。
なんだかもう、至れり尽くせりといった感じですね。
第1章を読むだけでも違う!
この本の第1章は、「基本的な考え方」となっていて、上記した引用部分もここに書かれているものです。
ここを読むだけでも、かなり「なるほど~」と思わせてくれるのではないかと思います。
この章の「指主導の考え方」の項には、「私たちは指だけでピアノを弾ているのではない(本書5ページ)」とはっきりと書かれています。
そして、
「指でピアノを弾く」と言うのは、「足先(foot)だけで走る」というのと同じようなものです。
本書5ページ「指主導の考え方について」の項より
と書かれています。
そうだよな~
そして、もう一つ。
有名なピアニストも、身体の故障に苦しんでいる人がいる、という事実。
「有名なピアニストの弾き方が正しい、と思い込むのは危険」ということも、本書では述べられています(本書9ページより要約)。
これは、とても重要な指摘では、と思いました。
『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』まとめ 日々、自分で感じ考えながら・・
正しいボディ・マップを獲得するのは並大抵のことではない、と感じています。
自分だけでできるんだろうか・・とも思います。
ひとつの方法としてやってみたのは、様々な場面で(ピアノを弾く以外でも)「今の動作はどこをどう動かした?」ということを感じることです。
必要ないところに力が入っていないかな?
この部分を楽にしてもこの動作はできる?
こんなことを考えながら、動くということです。
本書の、これも第1章の中にですが、「身体のどの程度まで感じてピアノを弾いているか」といった問いが何度か出てきます。
これはつまり、「筋感覚に注意を向けましょう」ということです。
私たちの身体には、位置と動きに関する情報を集めることのできる特殊な神経終末が(主に関節や結合組織の中に)存在しているのです。情報を脳に送るこの神経は、映像、匂い、音、味、手触りといったほかの感覚情報を伝達する神経とは異なり、「運動」に関する情報を脳に伝達します。したがって、この感覚は「運動覚」あるいは「筋感覚」と呼ばれています。
本書12ページ「筋感覚」の項より
この感覚に、まずは敏感になることかな、と思います。
それと身体の構造とを結び付けて考えていくことで、だんだんとボディ・マップがピアノを弾くにふさわしい形に塗り替えられていくのではないかな。
なかなかに時間がかかりそうですが、じっくり確実に取り組んでいきたい、と思っています。
『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』目次
最後に、この本の目次を記します。参考にしていただければと思います。
- 第1章 基本的な考え方
- ピアニストの身体の傷みと故障
- 指主導の考え方について
- 動きからのアプローチ
- 動きの質
- 筋感覚
- 注意力を養う
- ボディ・マップ
- ボディ・マップvs観念的な知識
- 統合された感覚
- 筋感覚と音楽的想像力
- ピアノ演奏は脳の作業
- この本の使いかた
- 専門家のレッスンを受ける
- 第2章 身体の構造をマッピングする
- 体重を支え、伝達する
- 頭蓋骨
- 脊柱
- 脊柱の働き
- 骨盤
- 大腿部
- 下腿部
- 足
- 第3章 バランスの場所をマッピングする
- 姿勢かバランスか
- 下向きへの引っ張り
- バランスをとり戻す
- 頭と脊柱をつなぐAO関節
- 腕の構造のバランス―肩関節
- 腰椎
- 股関節
- 足関節
- バランスの場所同士の関係をマッピングする
- 第4章 腕と手をマッピングする
- 腕全体について
- 胸鎖関節
- 肩関節
- 肘関節
- 腕の3つの回転(まとめ)
- 手首
- 手
- 親指の使いかた
- MCP関節における指の動き
- 指骨関節
- 第5章 筋肉のマッピング
- 背中
- 手
- 曲がった指
- 親指主導と尺側偏位
- 前腕のアーチ
- 腕を支えているもの
- 第6章 呼吸のマッピング
- 肺の場所
- 呼吸の動き
- フレーズで呼吸する
- 第7章 ピアノのマッピング
- ピアノ・マップ
- 「ポイント・オブ・サウンド」のマッピング
- 「音の聴きかた」と演奏空間のマッピング
- 第8章 オルガニストのために
- オルガニストの動きのマッピング
- テクニックの問題と動作について
- 特殊な身体のバランスと動きについて
- 第9章 傷み・故障と再訓練
- 故障の4つの原因
- 痛み・故障はどのように進行するか
- 腱鞘炎
- 手根管症候群
- ジストニア
- 傷み・故障の治療
- なぜ多くのピアニストは身体の故障が治らないのか?
(公開日:2017年2月24日 最終更新日:2024年8月28日)
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