左右で違う動きが必要なピアノ 手がつられないように弾く練習法

ピアノの弾き方・練習法

ピアノを始めたばかりの人がまずぶつかる壁。

それは、「手を左右別々に動かせない!」ということではないでしょうか。

つまり、どちらかの手がどちらかにつられる、ということですね。

私の教室でも、レッスンをしている子どもたちの中にいます。壁にぶつかっています。

そんな時、レッスンの始めにちょっとやってもらっていることがあります。

この記事で分かること
  • 手がつられてしまうのはなぜか?脳の仕組みから解説
  • つられないように弾くための練習法とは?

手の動きはつられるようになっている

そもそも、人間の手はつられやすいようにできているようです。

なので、「つられちゃう~~」と嘆く必要は全くない!つられて当たり前なんです。

たいていは、左手が右手につられてしまう、ということになるでしょうか。

右手が利き手のことが多いし、メロディーを担っている場合も多いので意識が向きやすいですしね。

つられてしまう脳の仕組み

なぜつられてしまうのか。

その辺りのことを『ピアニストの脳を科学する~超絶技巧のメカニズム~』(春秋社)から引用してみます。

右手の動きは左の脳が、左手の動きは右の脳が支配しています。両手を動かすときには、脳は左右両方が働いています。実はこのとき、左右の脳をつなぐ「橋」の役割をするところ(脳梁)を通って、脳から筋肉に送られる信号の一部が、反対の脳に漏れているのです。

「第1章 超絶技巧を可能にする脳 4左右の手の独立性」よりP.27

指を動かすということも、結局は脳が指令を出しているからできること。その脳が、そもそもこう⇧なっている、ということですね。

よく知られている現象として、

「指を左右で違った動きをさせて、その動きをだんだん速くしていくと、そのうち同じ動きになる」

というものがあります。

例えば、

  1. 右手は人差し指→中指の順で交互に動かし、左手は中指→人差し指の順で動かします。
  2. 両手同時にそのように動かしてだんだん速くしていくと、やがて左右とも同じ指が動くようになる

ということです。

両手の動きを速くすると、脳はより多くの指令を筋肉に送らないといけないので、その分、橋を渡って反対の脳に漏れる信号の量も増えます。また、左の脳から右の脳に漏れる信号の方が、その反対方向の信号の漏れよりも多いため、両手を速く動かすときには、特に左から右の脳に多くの信号が流出していきます。その結果、右の脳から左手の筋肉に送られる指令に、左の脳から漏れてきた信号がたくさん混入してしまいます。そのため左手には、右手に送られる指令と同じ指令が伝わり、右手と同じ動きをしてしまうのです。

同上

速い動きは、さらにつられやすくなる、ということですね。

でも、「速い」は感覚的な部分も大きいので、ピアノ初心者の方はたとえゆっくりであっても同様のことが起きる、ということでしょうか。

指を一本一本別々に動かす、ということ自体が日常生活でそれほどあることではないので、戸惑って当たり前。

慣れないことをしているので、余計につられやすいということではないでしょうか。

つられないためには・・

そもそもつられやすくなっている。でも、つられていてはピアノが弾けない。

では、どうすればいいのでしょう・・。

ピアノ演奏のように、左右の手が異なった動きを素早くおこなうためには、右の脳は左の脳から来る指令に負けないように、より強い指令を筋肉に送ったり、左から漏れてくる指令をブロックするための指令を新たに作らないといけません。したがって、両手を動かしているときの脳の活動を見ると、左右同じ動きの時よりも、左右反対の動きをするときのほうが、運動に関連する脳の領域が、より多く活動しています。つまり、左右別々の動きをするときのほうが、脳にとって「大変」なわけです。

同上P.27~29

結局は、漏れてくる指令に負けないよう、つまり、つられないよう強く意識して弾く、ということしかないように思います。

意識して・・意識して・・・何度も弾く!

それを繰り返すことで、だんだんと左右別々が苦にならなくなっていく、ということでしょうか。

練習練習、また練習。それしかなさそうですね。

ピアニストはなぜつられない?

ピアニストは「手がつられちゃう~」なんてことはありません。

それはなぜか・・

ほとんどピアノを弾いたことの無い人とピアニストの脳は、違いがあるようです。

それは「脳梁」の大きさ。

左右の脳の間には橋がかかっていて、その橋で情報がやりとりされています。この橋(脳梁)の体積をMRIで調べてみると、7歳より前に専門的な音楽訓練を受け始めたピアニストのほうが、音楽家でない人よりも、体積が大きいことがわかりました。また、幼少期の練習時間の長さに比例して、橋の体積が大きくなることも分かっています。

同上P.30~31

ピアニストになるような人は、たいてい小さなころからピアノのレッスンを始めます。

左右別々の動きを長~く訓練することで脳梁が大きくなり、脳での情報のやり取りがスムーズになり、苦も無く「超絶技巧」なんてことができるようになるということですね。

関連記事『ピアニストの脳を科学する~超絶技巧のメカニズム~』をこちらの記事で紹介しています。

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つられないようにするために~練習法~

片手だととってもスムーズ。でも、両手になると弾けない・・・

レッスンをしているときホント~~によく見る状況です。

右手なら右手のことだけを考えて弾けばいい。

でも、両手になると、両方の手のことを同時に考えないといけない。

そういうことですよね。

で、よく観察していると、やっぱりつられている。

左手は伸ばす音なのに右手と同じリズムで弾いてしまう

とか、

左は下がるのに右と同じように上がってしまう(この場合、指は左右違う動きをすることになるのだけれど、こういう状況もよく見ます)

とか。

もちろん、曲の練習の中でつられないように弾くこともしますが、それとは別に次のようなことを取り入れています。

指の動きにとにかく集中!

「曲を弾く」ということからひとまず離れて、とにかく指だけに集中してもらいます。

右はどう動き、左はどう動くのか・・。そのことだけを考えて弾くということです。

  • 右手・・・鍵盤に1本ずつ指を置き、「ドレミファソファミレド」と弾く
  • 左手・・・いろいろなパターンで弾く
    1. ソファミレドレミファソ(左右同じ指)
    2. ドレミファソファミレド(指は違うが同じ音)
    3. ソファミファソファミファソまたは逆(途中で戻る)
    4. ソミドミソミドミソまたは逆(一つ飛ばし)
    5. ソーミードーミーソーまたは逆や隣の音を弾く(2拍ずつ伸ばす)
  • 左手のパターンは他にもいろいろと考えられるかなと思います。
  • 左右逆にして、右手の方をいろいろ替えて弾くのも必要ですね。
  • 音はドレミ・・じゃなくてもいいです。隣り合った音であれば。
  • 場合によっては、5音ではなくドレミなどの3音から始めるのがよいかもしれません。

⇩上に挙げた1~5を続けて弾いています。参考にしていただければと思います。

レッスンでの様子を見ていると、「途中で戻る」パターンまではなんとかできても、一つ飛ばしになると途端に止まり止まりになってしまうということが多いように思います。

こうしたことを、「ウォーミングアップ」と称して曲を弾く前にやってもらいます。

すぐにはスムーズにはなりません

曲のレッスンの中でも部分練習として似たようなことをし、こうしたことを何度も繰り返すことで、だんだんとスムーズになっていくものだと思います。

⇩この内容を解説文と楽譜にして販売しております。

手がつられないように弾くための練習楽譜&解説

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頭でしっかり考えて!

このときに注意しなければいけないのは、考えながら弾く、ということです。

自分がやっていることをしっかり意識して弾く、ということでしょうか。

やみくもに弾いていては、弾けるようになるとは思いますが、効率が悪いように思います。

一音一音確かめながら、流れが止まってもいいので音を間違えないように弾く、というようにするのもよいかと思います。

「脳で情報がやりとりされてるぞー」「脳梁から漏れないように―」なんて、イメージするのもいいのかも。

こういうことが弾き方を変えるのではないかな、と思います。

大人の方だと、考えて弾く、とか、脳をイメージする、とか分かりますよね。

「考えて弾く」ということ、子どもたちにはどうもよく伝わらないようで、なかなか悩みどころです・・。

これだけやっていても弾けるようにはなりません

この「ウォーミングアップ」、これだけやっていれば、いつもどんな時も左右別々の動きがスムーズになる、というわけではありません。

これは、あくまでも「左右別々で弾くってこんな感じ」ということを感じてもらうためのもの。

私はそう捉えて弾いてもらっています。

結局は曲を弾くときにできなければ意味はなく、曲を弾くときは「ウォーミングアップ」とはまた違う動きになります。

曲でもきっちり練習しなければ、やっぱり弾けるようにはなりません。

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確かにピアノは難しい・・でも!

こうしてみてくると、両手でピアノを弾くということはなかなか難しいことに思えますね。

指は脳の多くの部分と関係しているといわれます。

指を細かく動かすピアノは脳をかなり使うことになる。だから、「脳トレになる」とか言われるんですよね。

上に、ピアニストはそうでない人より「脳梁の体積が大きい」ということを書きましたが、「指を動かすための神経細胞の数が多い」ということも分かっているそうです。(『ピアニストの脳を科学する』よりP.12)

これも、幼少期からの訓練の賜物だとか。

そうなると、大人になってから(あるいは小学校高学年や中学以降から)ピアノを始めても無駄なのか・・と思えてきますが、そうではないようです。

ピアノの練習は、やはり早く始めるにこしたことはないようです。ただし、「早くピアノを始めないと、上手にピアノが弾けるようにならない」と決めつけるのも早計です。確かに、幼少期に正しい練習法でピアノを始めておけば、指を速く動かしたり、左手を器用に動かしたりするうえで有利な点はあるでしょう。しかし、大人になっても脳の神経細胞は増えるのです。ピアノを始めるのがたとえ遅くても、練習時間さえたくさん確保すれば、いつからでも上手になるチャンスは残されています。

同上「2ピアノの練習は脳をどう変化させるか」よりP.19

これは、いくら幼い頃にピアノを始めても練習をしなければ同じ、ということでもあります。

結局は練習量だということ。努力次第だということ。

ピアニストのように脳梁を大きくすることは難しいのかもしれない。

神経細胞を格段に増やすことはできないかもしれない。

それでも、練習をすれば近づくことはできるということですね。

それに、指を複雑に速く動かせるから良い演奏、というものでもありませんよね。

大人の方だからこその演奏、というものが確かにあるんです。

大人になってからピアノを始めて、素敵に演奏している人はたくさんいます。

ぜひそのことを忘れずに、ピアノ楽しんでもらいたい、と思っています。

公開日:2017年6月29日 最終更新日:2024年2月27日

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