日々のレッスンで、「考えて弾いて」とよく子どもたちに話します。
それは、「ピアノは楽譜通り間違えないように弾いて終わりじゃないよ」ということを伝えたいから。
でも、「間違えないように弾く」ことを重要視しがちな子どもたち。
なかなかうまく伝わらず、悩みつつです。
子どもたちは、「考えて弾く」という抽象的な言い方がよく分からないようです。
その辺りを、発達心理学の視点も入れながら考えてみました。
間違えないように「弾けた」「弾けない」で判断しがちな小学生時代
小学生くらいの子どもたちは、物事を「できた」「できない」で判断しがちです。
それは、発達段階上無理のないことでもあります。
発達心理学から見る小学生時代
小学生の年齢は、ピアジェの発達理論による「具体的操作期」といわれる時期です。
これは、具体的な状況に関しては論理的に考えることができるようになる、というものです。
自己中心的なものの捉え方から、客観的な考え方ができるようになっていく段階。でも、内容は具体的なものに限られる、ということですね。
例としては、「保存の概念」が獲得される、ということが言われます。
見た目が変わっても数や量は同じ、ということが理解できるようになるということです。
参考文献:『発達心理学―保育・教育に活かす子どもの理解 (シードブック)』(建帛社)より
でも、まだまだ自己中心性を残している段階。そして、物事を、分かりやすい自分の物差しだけで判断しがち。
ある事ができたかどうかで、それにかかわるすべてのことの価値を決めてしまったり、自分や他人を評価してしまったり。
あの子は〇〇ができるからすごい!とか、自分はできないからダメ・・とか。
「それは違うよな」と思いつつも、まだそのことの実感が伴わない、という時期かな、と思います。
「10歳の壁」などといわれる状況かな。
ここを脱皮できると、もっと客観的に、もっといろいろな視点から物事を見ることができ、頭の中だけででも考え、判断できるようになります。
「形式的操作期」といわれる時期に入る、ということかな。発達心理学上では、11歳以降とされています。
この辺りは、以前、学童保育指導員をしていた時の経験から感じることです。
ピアノの演奏でいうと、
間違えないで弾けた!、難しい曲が弾けた!
など、そういう基準で曲を弾けたかどうかを判断しがちだと感じます。
「やったぁ」という顔をしている横で言いにくいけれど、でも言います。
今、考えて弾いた?
音楽の演奏は、間違えないで弾けたから良い、というものじゃないんだよ、と。
音楽の演奏で大事なのは間違えない事じゃない
ピアノを演奏する本当の楽しさ、喜びは、自分がこの曲から感じた思いを、自分の力で聴く人に伝わるように表現すること。
これだと思います。
それには、まず、この曲をどう感じるのか、ということを考えることが大事。
でも、ピアノを弾くって技術的な側面も大きいので、間違えないように弾く、とか、速く弾く、とか、そうした視点に囚われやすいですよね。
そういう基準で見たほうが分かりやすいし。
そうじゃない、ということをきちんと伝えていく。
これは、音楽を教える立場としては、とても大事なことだと思います。
学校の「音楽」の授業はどうなってる?学習指導要領を覗いてみた
そこで気になるのは、学校では音楽をどのように教えているのか、ということ。
小学校の学習指導要領を見てみます。
表現及び鑑賞の活動を通して、音楽を愛好する心情と音楽に対する感性を育てるとともに、音楽活動の基礎的な能力を培い、豊かな情操を養う。
文部科学省「現行学習指導要領・生きる力 第2章各教科 第6節音楽」より
やっぱり、「音楽を愛好する心情」と「音楽に対する感性」を育てるんですよね。
そして、「豊かな情操を養う」ということです。
もちろん「基礎的な能力」も培うことになるんですが、それが第一義的なものではない、ということですね。
私は、そう読み取りました。
関連記事→音楽の授業の意義についてこちらの記事にまとめています。
ピアノのレッスンは、「ピアノ」という一つの楽器をあつかい、それを使うための技術を教えるところではあります。
でも、あくまでピアノは一つの手段。
やっぱり「音楽」との出会いを大事にし、自らの手で演奏することの意味や、楽しみ、喜び、を感じてほしいと思います。
「楽譜通り間違えないで弾く」ではなく「考えて弾く」の中身は?
私は、レッスンの中でよく「考えて弾いてね」という言い方をしています。
それは、どういうことかというと・・
あなたはこの曲からどんなイメージを持ったの?
どういうところに惹かれるの?
どんなふうに聴いてほしいと思うの?
そういうことを「考えながら」弾いてね、ということです。
この辺りスタッカートがいっぱい付いてるんだけど、どんなイメージ?
ここから転調してるよね、どんな雰囲気を感じる?
ここからはじめとおんなじメロディーが出てくるね、どんなふうに弾く?
具体的には、こんなことをいっぱい質問します。
すると、中には、曲全体を見通して、ストーリー仕立てに話をしてくれる子もいます。
それが、面白くって、楽しくって。
私が考えていたこととは違うイメージが出てきたりして「へぇ~なるほどね~」と感心したり。
自分の演奏している曲について、いろいろと考えること、そして、聴かせるという視点で演奏しようとすること。
これは、発達という視点から見ても、客観的な、そして抽象的な思考が可能となる「形式的操作期」への移行の助けにもなるかもしれません。
「考えて弾いて」という言い方なのかどうか・・もっとふさわしい言葉があるのかも・・と思います。
でも、伝えたいのは上に書いたようなこと。
技術は、自分が曲から感じたことを表現するために必要なこと。
順番を間違えちゃいけないよな。
技術の上達がなければ表現もできないわけで、教える側としてはとても難しい部分です。
まだまだ悩みつつやってます。
(公開日:2016年12月27日 最終更新日:2022年12月22日)
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