子ども向けのピアノ導入期教材『ピアノランド』。
日本中のピアノ教室で多く使われている有名なテキストですよね。私もよ~く使っています。
とにかく曲がとてもいい!バラエティー豊かです。
「曲集」の形態で作られていて、「良い曲をたくさん経験してほしい」という思いが詰まった教本です。
1巻から5巻まである『ピアノランド』ですが、今回は3巻までの内容をまとめます。
『ピアノランド』って何?
まずは『ピアノランド』そのものについて簡単にまとめます。
「ピアノランド」と一口に言ってしまいますが、ピアノ導入のメソッドです。
なので、ピアノ演奏を体系的に学べるように、テクニック教本や発表会向け曲集などシリーズで出版されています。
『ピアノランド』は、その中心となる教材ということですね。
すべて樹原涼子さん作曲のオリジナル曲で、日本人による日本人のためのピアノメソッドを目指した、ということです。
初版は1991年。今年は2018年なので、27年前ということになりますね。
このメソッドの最大の特徴は「2段階導入法」。
第1段階ではピアノを使わずに聴く力、手の使いかた、歌心、読譜を学び、そのあと実際にピアノを弾く第2段階へ入る、という形です。
『プレ・ピアノランド』という、第1段階のテキストがありますね。
『プレ・ピアノランド』を終えてから『ピアノランド』へ入る、というのがこのメソッドの本来の流れです。(実際は『プレ・ピアノランド③』からピアノを弾き、『ピアノランド①』とともに用いることになっています。)
『ピアノランド』は「曲集教材」と併記されていることがありますが、その通り「曲」しか載っていません。
一般的なテキストにあるような楽典的な説明のページは全くなし、です。
これも大きな特徴かと思います。
「まずは音楽を楽しむこと。理屈は後から。」という考えで作られています。
ピアノランドについて詳しく知るには、こちら→樹原涼子ホームページ「ピアノランドとは」をどうぞ。
『ピアノランド①』について
それでは内容を見ていこうと思います。まずは『①』から。
ピアノを初めて弾く、という段階ですね。
全部で19曲。すべて8小節の長さです(8曲目以降はすべてリピート記号がありリピートすると16小節)。
楽譜はこんな感じです。
始めの方⇩
終わりの方⇩
1曲目の前に・・
1曲目の前に「ぴあのらんどであそぼう」というページがあります。
書かれているのは・・
- ゆびばんごうをおぼえよう
- ゆびのたいそうをしよう
- こっけんであそぼう
- ドをさがそう
以上の4つについて1ページずつ使って、大きなイラストで説明されています。
「ゆびばんごうをおぼえよう」のイラストの手は、原寸大。子どもの手の大きさとおんなじですね。
こんな感じです⇩
音域は中央ドから上下へ
音域の広がり方は、中央ドから上下へ広がる形です。
①では、最終的に上下4音(右ドレミファ、左ドシラソ)まで広がりますが、広がり方は右から1音ずつです。
中央ドのみ・・2曲
⇩
右ドレ左ドのみ・・2曲
⇩
左右とも2音(右ドレ、左ドシ)・・2曲
⇩
右ドレミ、左ドシ・・4曲
⇩
左右とも3音(右ドレミ、左ドシラ)・・2曲
⇩
右ドレミファ、左ドシラ・・3曲
⇩
左右とも4音(右ドレミファ、左ドシラソ)・・4曲
楽譜の左上隅に、この曲で使う指がイラストで載せられています。⇩
拍子やリズムの進み方
拍子は以下の通り。
- 4/4拍子・・14曲
- 3/4拍子・・2曲
- 6/8拍子・・最後の3曲
出てくる音符は8分音符まで(2分、付点2分、4分、付点4分、8分)。全音符は出てきません。
導入教材1冊目で6/8拍子、そして8分音符が出てくることは、他にはない特徴ですね。
8分音符は6/8拍子だけではなく、4/4拍子でも出てきます(14,15曲目)。
休符の使われ方もリズムを難しくする要因だと思いますが、『①』では、曲の終わりに使われている場合がほとんどです。
曲の途中であってもメロディーの区切りでの使用で、複雑な使われ方ではありません。
6/8拍子の曲のみで8分休符が使われていますが、他はすべて4分休符。3/4拍子も4分休符で終わります。
メロディーの流れは?(音飛びの状況など)
メロディーラインはとてもシンプルだと思います。できるだけ隣り合わせの音で弾いていけるよう工夫されていると感じます。
すべての曲で左右受け渡しをしてメロディーを弾いていく形で、そうしたときには5度や6度の音飛びがあります。
でも片手内では、右3度(ドミ、レファ)まで、左は4度(ドソ)までです。
アーティキュレーションに関わる記号としては、16曲目でスラーが登場します。
楽譜ネットでもどうぞ。
出版元の音楽之友社の楽譜紹介ページはこちらです。
『ピアノランド②』について
『ピアノランド②』を見てみます。
こちらは全部で20曲。楽譜の大きさは①より少し小さくなります。
「ぴあのらんどであそぼう」は1ページのみ。「ぶらぶらたいそうをしよう」という体をリラックスさせる体操が載っています。
楽譜はこんな感じ。
始めの方⇩
終わりの方⇩
音域はさらに広がります
①で右ドレミファ、左ドシラソまで広がった音域は、右ドレミファソラシ、左ドシラソファミレドまで広がります。
広がり方はやはり、右から1音ずつです(最後だけちょっと違うけど)。
右ドレミファ、左ドシラソ・・3曲
⇩
右ドレミファソ、左ドシラソ・・1曲
⇩
右ドレミファソ、左ドシラソファ・・6曲
⇩
右ドレミファソラ、左ドシラソファ・・2曲
⇩
右ドレミファソラ、左ドシラソファミ・・5曲
⇩
右ドレミファソラシ、左ドシラソファミ・・2曲
⇩
右ドレミファソラシ、左ドシラソファミレド・・1曲
そして、①同様左上隅に使う指のイラスト入りです。
音符休符の種類増えリズムは少し複雑に 拍子もいろいろ
まず、増える音符は全音符(1曲目)。それに伴って全休符(1曲目)と2分休符(2曲目)が加わります。
さらに、5曲目と18曲目で、タッカのリズム(付点8分+16分音符の付点のリズム)が出てきます。
出てくる拍子は、
- 4/4拍子(10曲)
- 3/4拍子(3曲)
- 6/8拍子(4曲)
- 2/4拍子(1曲)
- 2/2拍子(1曲)
- 5/4拍子(1曲)
バラエティーに富んでいます。
両手奏始まる(メロディーの流れや音飛びの状況も)
『②』の大きな特徴は、1曲目から両手奏が始まることでしょう。
1曲目は同音の連なりでユニゾンですが、2曲目では、右は全音符で左が動く形です。
左右でのメロディー受け渡しの曲もはさみつつ、右メロディー左伴奏といった形が増えていきます。
そして、最後20曲目では左で5度の2音の和音が出てきます。
メロディーラインは相変わらずシンプルな感じで、5指固定で弾けるものがほとんどです。
12曲目で、ラソファミレ→ソファミレド・・と5指を使って順番に移動するものがあります。
そして、最後の3曲で指くぐりが出てきます(いずれも右のみ)。
ほとんどが5指固定可のため、音飛びも左右とも5度までです。
様々な音楽記号、調も登場
演奏を豊かにしていくための記号もいろいろと出てきます。
アクセントやスタッカート、テヌート、リズムに関わってきますがタイも登場。オクターブ記号にフェルマータやrit.も。
曲も長くなります。
- 16曲目までは8小節(始めにリピートして16小節もある)
- 17曲目は12小節
- 18曲目には1カッコ2カッコが登場
- 19曲目にはD.S.、fineが登場
これまで1ページに1段で見開き2ページ2段だった楽譜が、17曲目以降は見開き2ページ3段になります。
『②』では、様々な調が出てきます。
10曲目から♯♭が登場。それぞれ2つまでの調ですね。
間に調号のないハ長調やイ短調の曲を挟みつつ、
- ニ短調(♭1つ)
- ニ長調(♯2つ)
- ト短調(♭2つ)
- ト長調(♯1つ)
- ホ短調(♯1つ)
の順で出てきます。
指の練習曲つき
この『②』から「指の練習曲」が載せられています。
見開き2ページに5曲です。
9曲目と10曲目の間にあり、10曲目から指のポジション移動が始まるため、その準備という位置づけです。
楽譜は小さめ。指に集中してもらうため特に楽譜を読む必要はないということですね。
すべて伴奏譜がついていて、先生と一緒に弾く形になっています。
もう少し終わりになってから出てくる指くぐりや、音階の練習も含まれています。
楽譜ネットでもどうぞ。
出版元の音楽之友社の楽譜紹介ページはこちらです。
『ピアノランド③』について
『ピアノランド③』に入ります。
曲数は全19曲ですが、19曲目は6手連弾です。
「ピノランドであそぼう」は「つきよのウサギ」という輪唱の曲が載っています。
楽譜はこんな感じ。
始めの方⇩
終わりの方⇩
5指固定はなし!すべて両手奏 和音も増える
音域はさらに広がり、5指固定で弾ける曲はなくなります。
音域は広がりますが、ト音記号ヘ音記号ともほぼ5線内に収まる範囲で、加線の音はあまり出てきません(出てきても2本まで)。
そして、1曲目からすべて両手奏になります。左右それぞれの役割をもって弾く、ということで、左右ともよく動きます。
音域が広がり5指すべてを駆使する形になるので、『①』『②』にあった使う指のイラストはなくなります。
代わりに、右上隅にこの曲のポイントがまとめられています。⇩
和音もいろいろな形が出てきます。
- 2曲目に左の3度の2和音
- 7曲目に左右とも5度の2和音
- 9曲目に左で2度の2和音でのタッカのリズムを弾く
- 10曲目と15曲目には右で3和音が出てきます。でもミソドとレミソで、単純な3度の重なりではありません。
リズムもより複雑に
1曲目にタ~ンカのリズム(付点4分+8分)が出てきます。
9曲目に8分音符の3連符があります。まず膝などを打つ形で1回だけ登場し、最後の曲でメロディーとして実際に弾きます。
休符の使いかたが複雑になり、小節の頭や途中にも頻繁に出てきます。
『②』で出てきた「タッカのリズム」以外は16分音符は出てきません。
拍子は、4/4、3/4、6/8、2/2拍子で、『②』までで登場していますね。
4/4拍子はCと表現されるようになります。
強弱記号の登場 曲はさらに長くなる
『③』から強弱記号が出てきます。1曲目でp、f、mf、4曲目でmp、7曲目でsf、15曲目にffが登場します。
クレッシェンド(cresc.)、デクレッシェンドは3曲目以降随時出てきますね。
楽譜は、すべて見開き2ページで3段(一部4段)になります。1段5~6小節が主ですね。
リピート記号は、8曲目から新たにD.S. to Codaが加わります。
リピートのない曲は3曲のみ。ほとんどの曲に何らかのリピート記号がついています。
ハ長調の曲は激減 転調も
調は♭3つのハ短調が加わります。ハ長調は6曲に減り、いろいろな調で弾くことになります。
出てくるのは次の通りです。
- ハ長調イ短調(調号なし)
- ヘ長調ニ短調(♭1つ)
- ト長調ホ短調(♯1つ)
- ニ長調(♯2つ)
- ハ短調(♭3つ)
さらに、転調する曲が4曲目と18曲目の2曲あります。どちらも同じ調号の長調から短調へという並行調による転調です。
指の練習曲つき
『③』も「指の練習曲」が載っています。こちらも見開き2ページで4曲です。
やはり9曲目と10曲目の間にあり、内容は「半音階と和音」となっています。
より複雑になっていく指の動きに対応したものということですね。
『②』同様楽譜は小さく、読譜ではなく指に集中することを第1にしています。
また、先生と一緒に弾けるよう4曲とも伴奏譜がついています。
楽譜ネットでもどうぞ。
出版元の音楽之友社の楽譜紹介ページはこちらです。
表にまとめてみた
『ピアノランド』①~③までそれぞれまとめてきましたが、ここで、一つの表にしてみます。その方がわかりやすいかと。
① | ② | ③ | |
音域 | 右ドレミファ 左ドシラソ | 右ド~シ 左1オクターブ | 5線内に収まる程度 |
拍子・リズム | 4/4,3/4、6/8 8分音符まで(全音符なし) | 左記+2/4,2/2,5/4 付点8分+16分(タッカのリズム) | 4/4、3/4、6/8、2/2 4/4=C 左記+
休符の使われ方複雑 |
音飛び・和音など | 右3度、左4度 和音なし | 両手奏開始 音飛び左右とも5度まで 右指くぐり 左5度の2和音 | すべて両手奏(5指固定なし) 右2,3和音、左2和音 |
記号・調 | 始めへリピート、スラー 調号なし(ハ長、イ短) | 左記+
調性は左記+♯♭2 | 強弱記号の登場 左記+D.S. to coda 調性は左記+♭3つまで |
共通している部分
ここまで、①~③の違い、変化をまとめてきましたが、共通している部分もあります。
それは以下のことです。
- 全曲歌詞つき
- 全曲伴奏譜つき
- 楽曲のみ(楽典的な説明ページなし)
この3点は、『ピアノランド』の”うり”でもありますよね。
導入期は使う音が限られてしまうので、とても単純な曲になってしまいます。これ”曲”って言える?という感じですよね。
それを、一緒に歌ったり伴奏をつけたりすることでステキな曲に大変身!
今は多くの導入期教材でこのようになっていますが、『ピアノランド』が先駆けなのかな。
それから、3つ目の「楽曲のみ」という点。これは今でもあまり見られないように思います。
とにかくまずは曲の演奏を楽しもう!ということなんですね。先生が生徒の状況に合わせてその都度説明をする、ということが求められています。
ステキな曲がいっぱい!
この『ピアノランド』、私もレッスンでよく使っています。
小学校入学前後でレッスンを始める子には、まずこちらをお勧めしています。
その第1の理由は、曲がイイ!!ということ。いろんな雰囲気の曲が入っています。長調ばかりではなく、①から短調も出てきます。
明るい感じ、暗~い感じ、楽しい感じ、穏やかな感じ、しっとりとした感じ、力強い感じ、華やかな感じ、にぎやかな感じ…実に様々!
はじめて中身をじっくり見たとき、「使える音の数が少ない中、よくもま~こんなステキな曲が!!」と驚いたものです。
導入期の教材として進み方は決してゆっくりではなく、生徒の理解度によってはかなりていねいに説明したり弾いて聴かせたり練習させたり、が必要かと思います。
でも、この魅力的な曲の数々をぜひ経験してほしい、ととても思っています。
たくさんある導入期の教材。もっといろいろ見てみたいと思っていますが、『ピアノランド』はこれからも使い続けることになると思います。
- 導入期教材を紹介した記事の一覧です。
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